社長ブログ

「日はまた昇る」~アーネスト・ヘミングウェイ~

雑感あれこれ

たびたびこのブログに登場する増上寺君や、WEBマスターの歯ブラシ君から、昨年から言われていたことがあります。
「今まで読んだ本の中で社長の“お勧め本”を紹介してください」
いやそれは意外と恥ずかしいもので、躊躇していましたがやってみようと思い立ちました。(他のことが思い立たないまま、パソコンの前に10分座っていたからとも言う)
それで「日はまた昇る」なのです。

410210013X 日はまた昇る
アーネスト ヘミングウェイ Ernest Hemingway 高見 浩
新潮社 2003-06

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尚この本がいい本であるかどうかは、私の文学的才能で評価なんか出来ません。ただ一番最初に紹介しようと思った理由はあります。それは一番繰り返し読んだ本であるということです。実はもう10回くらい読んでるんじゃないでしょうか。なぜ読むのかって?なぜだかわかりません。でも時々読むんです。
物語の内容はこうです。
主人公のジェイクはパリで新聞社の特派員として働いています。主な登場人物は友達の作家ロバート・コーンとその妻。貴族と結婚しながら奔放な生活を続けるブレッド。
まるで大人の遊びのような恋愛をしたり、馬鹿騒ぎをしたりする仲間を広げながら、何も結果が出ない日々を送っています。
ジェイクはかつて第一次世界大戦で重傷を負い、そのとき看病してくれた看護婦がブレッドです。
彼はブレッドに好意を抱いていて、ブレッドもジェイクが好きなのですが、ジェイクはその負傷のせいで性的に不能であり、二人の恋愛は決して形にならないとお互いにわかっています。
そんな仲間たちがスペインの闘牛を見に行き、魚釣りをしたり、踊ったり、酒を飲んだり、さらに自堕落な日々を送っていくという物語です。
ヘミングウェイという作家は、クールなリアリズムを短い文章で表現するのが特徴で、日本で言えば片岡義男のような、そこにある現象を忠実に表現することによって(思いなどほぼ取っ払って)、淡々と描写していく小説を多く残しました。
物語全体にはなんというか、憂鬱感というのでしょうか、閉塞感というのでしょうか?そんな空気が流れ続けているのですが、その内容は非常に激しいものがあります。
ブレッドはジェイクの好意も自分の気持ちもわかっているのに、年を取った貴族と結婚したり、ジェイクの友達と浮気をしたり、果ては好きになった闘牛士との橋渡しまでジェイクに頼みます。ジェイクはその次々と繰り出される残酷な仕打ちに、耐えるでもなく淡々と答えていきます。
そして、その恋が終わるとまたブレッドはジェイクのところに戻ってくるのです。まるで「あなたとは恋愛は出来ないけれど、あなたしか愛せない」
初めて読んだのは確か高校生でした。
ブレッドの残酷な仕打ちに胸が張り裂けそうでした。いや自分だったら殺してやりたいと思うほどでした。次に読んだのは大学生の頃で、私がものすごくへこんでいた頃でした。なんだかその自堕落な物語を読むことで安心したような変な気分になったのを覚えています。「俺も年を取ったな」みたいな気分だったような気がします。
しばらくたって30代になり、父親にもなって経験をつんでから初めて冷静に読むことが出来るようになりました。そしてそれから何かの節目に必ず読むようになったのです。なぜかって?心地よいのです。
最近日本では、バブル崩壊直後の1992年から不良債権処理のめどがつく2002年までの間に社会に出た、25歳から35歳までの世代を「ロストジェネレーション」と呼んでいますが、まさにヘミングウェイがアメリカの文壇に衝撃を与え、時代の寵児となり、その後の現代アメリカ文学の礎とも言われるようになったきっかけがこの小説であり、この小説のテーマこそがロストジェネレーションではないかと私は思います。
ロストジェネレーションを「失われた世代」などと訳したりしているのを見かけますが、なんだかちょっと違う表現だと思うのは、この小説のせいかもしれません。
日本では世界戦争といえば第二次世界大戦のことだと考えられていますが、ヨーロッパでは第一次世界大戦の方が、時代に対する影響が大きいという記事を読んだことがあります。
それまでのヨーロッパにおける、価値観を粉々にしたのが第一次世界大戦だったのです。ヨーロッパ域内での戦争は、それまでバランスを取っていた民族や国の関係を、ドラスチックな力の関係に変貌させます。最後はナチスのよるホロコーストにまで進んでいくのですが、そのきっかけはすべて第一次世界大戦に始まっています。
それまでの価値が崩壊した時代。新しい時代に合わせて、新しい人生プランを早く作りたい若者たち。だけども若者とはいえ、以前の時代に培った経験や引きずっているものがある。
「もうついていけないよ」と開き直るには若すぎる。
「俺たちの時代だ」と喜ぶには年を取っている。
そんな苦しい世代。それがヘミングウェイが表現したかった「ロストジェネレーション」なのではないでしょうか?
*ちなみにヘミングウェイの他の作品は一切読んでいません。私にとってのヘミングウェイは「日はまた昇る」のみなのです。「老人と海」などの名作の話をしたい人はもっと立派な人の所へ行ってください(笑)


3 thoughts on “「日はまた昇る」~アーネスト・ヘミングウェイ~

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  • やま より:

    あけましておめでとうございます。
    ヘミングウェイは長編・短編とも、ほぼ全て読んでいますが、長編では「海流の中の島々」、短編では「二つの心臓の大きな川」が好きです。いや、大好きです。「海流の中の島々」は、ボロボロになるまで読むので文庫で3冊目です。(正確には上下あるので6冊)
    「日はまた昇る」は2回は読んでいるはずですが、ブレッドは好きになれないし、印象薄いので、今日、再読しておきます先生。

  • やま より:

    追伸
    「ロストジェネレーション」は大久保康雄訳では「失われた世代」ですが、高見浩訳では「自堕落な世代」になっているそうです。
    そう言えば短編も訳者によって、印象が全然違ってくるので、やはり原文を読んでみたいものです。
    それはいつ?

  • 金丸です。 より:

    ありがとう山さん。
    その「海流の中の島々」を今度読んでみようと思います。

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    Posted by 金丸 : Comment(3) | 2007.1.10.