社長ブログ

「粗にして野だが卑ではない」~城山三郎~

雑感あれこれ

石田禮助の生涯
私は20年前までの城山三郎氏の本は、すべて読んでいると思います。
彼はビジネス小説の第一人者で、(現在の第一人者は高杉良さんでしょう)、たくさんの名作を残していますし、テレビなどでドラマ化されている作品もたくさんあります。
若い頃、零細企業に勤めた私にとって最大の悩みは、社会に触れられないということでした。朝から晩まで工場の中で油にまみれて仕事をしていましたし、休みもあまりありません。たまに誰かと飲む機会といえば、商工会工業部主催の何とか勉強会と称する飲み会。飲み会のあとはスナック。そこにいるのは古い機械となったおば様たち。いつも同じメンバー、いつも同じ店。
「若い頃はそんな風に世の中に挑戦するみたいなことを言っても、人間ってものはだんだん年を取るたびに世の中がわかってくるんだよ。俺だって若い頃は君みたいに挑戦する気持ちだったんだよ。まあ今にわかるよ。」
(そんなのわかりたくありません。)とは思ったのですが、仕事は納期に追われ、勉強どころか住んでる街を出ることさえ稀な生活をしていました。
そんな忙しい生活の中で私はだんだんあせってきました。(このままではどんどん世の中から遅れてしまう。)そしてその対策として選んだのが「経済小説」だったのです。
勉強、勉強だらけの本なんか読むのはつらいし、面白いだけの小説を読んでもこのあせりは消えない。経済小説ならその両方がカバーできると考えた20代前半の私は、とにかく読みまくりました。城山三郎氏以外にも、落合信彦清水一行柳田邦夫ジェフリー・アーチャーなどです。
夜中にうちに帰ってから焼酎を飲み、吐きながら本を読む現在の読書スタイルは、この頃完成したようです(笑)
さてそんな中今回ご紹介するのは、「粗にして野だが卑ではない」という第5代国鉄総裁石田禮助(れいすけ)さんを描いた小説です。
淡々とした文章で、あまり感情が入らないスタイルは、前回紹介した「日はまた昇る」と共通するようですが、この小説の場合は主人公のキャラがものすごくたっていることが作者にそうさせたように思います。
一橋大学を卒業して、三井物産に入った石田は、海外の支店長を歴任して最後は代表取締役にまで上り詰めます。そこですっぱり仕事をやめ神奈川県の国府津というところで農業をしながら、生活をしています。
三井物産時代にはその笑顔を見たことがない、という部下がたくさんいるほど厳しい人でしたが、正直でうそをつかないその性格や、生活ぶりのせいでみんなから慕われる存在でした。
その石田が70歳を過ぎて、財界人の誰もが嫌がった国鉄総裁を引き受けます。政治家にたかられ、日本最大の労働組合を抱え、それでいて経営のほとんどを法律で縛られていた当時の国鉄総裁は、ただ袋叩きに会うポストでしかなく、財界では誰も引き受け手がなかったのです。
石田は生涯の最後は「パブリック・サービス」(社会貢献)をしたいとかねがね思っていて、その職を引き受けますが、かといって自分の信念を曲げることはありませんでした。小説の題名にもなった、「粗にして野だが卑ではない」という言葉がそれを表しています。

国鉄総裁として初登院をした石田は、背筋をピンと伸ばし、代議士たちを見下すようにして、「諸君」と呼びかけ、彼らの度肝を抜いた。
石田は別に奇をてらってそうしたわけではない。
さらに、「嘘は絶対につきませんが、知らぬことは知らぬと言うから、どうかご勘弁を」と切り出し、「生来、粗にして野だが卑ではないつもり。ていねいな言葉を使おうと思っても、生まれつきで出来ない。無理に使うと、マンキー(野猿)が袴を着たような、おかしなことになる。無礼なことがあれば、よろしくお許し願いたい。」と断った上で、
「国鉄が今日のような状態になったのは、諸君たちにも責任がある」と言い放った。

現在の日本を作り上げた、先人たちの生き様を、みなさん是非参考にしてください。


4 thoughts on “「粗にして野だが卑ではない」~城山三郎~

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  • ハッピーバレンタイン/FDJ社入間本社から

    2007年2月10日
    https://www.fdj.com/FDJe-cards.html
    (カードは自由にお使い下さい)
    Please Turn Speakers On
    FDJ社入間本社周辺にて
    (2月4日撮影)

  • 新野 紘三 より:

    先日友人を自宅に招いて山形の芋煮会風の料理だけを御馳走したら〝粗食”と言われたので、mailの返信に〝平成の二宮金次郎”と書いて送ったら真意は「粗にして野だが卑ではない」の”粗”だとのこと。そこで貴殿のを読んでコメントした次第。いま私もパブリックサービスに従事しており、なんとなく近親感覚えました。

  • 金丸 より:

    有難うございます。

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    Posted by 金丸 : Comment(4) | 2007.2.4.