バブルの種~不動産融資は麻薬~
最近の東京都心の地価の上がりかたは、まるでバブルを彷彿とさせる様相です。しかし、今日の日本経済は割りと冷静にその状況を眺めているように見えます。
地価が上がり、企業所得も最高益を更新し、2000万円以上の収入のある世帯の数がバブル期の2倍を超え、それでもあの時の熱狂的(お祭り的)な雰囲気は感じられません。
これはひとえに、バブルの理由がはっきりしているからに他なりません。
地価が上がったのは主に東京の都心です。
実は東京都の都心では、2000年頃に景気回復策として建築基準法が改正されています。同じ土地に大きな建物が建つようになったのです。
需要がある土地で建ぺい率が上がれば、そりゃ土地の値段は上がります。
これが超高層マンションを生み、バブル時に比べれば相対的に広い物件が安く供給され、お客がつき、取引が活発になり、結果として地価の上昇を促しました。
そんなところへ、不動産投資信託の登場です。不動産投資信託とは、幅広い投資家から資金を集め、不動産物件に投資することによって、そこから上がる収益を分配するファンドのことですが、超低金利時代で資金の運用に困った機関投資家(地方銀行や生命保険会社、損害保険会社、年金基金など)が、利回りを求めて都心の物件に殺到しました。
ファンドは投資ですから、投資家は基本的にいつでも売り逃げることが出来ます。そこが一般消費者が自分の財産をかけて物件を買うことと違い(ただし市況が悪いときには、安値で売却せざるを得ないので、全然損しないわけではありません)、勢いづくと今のようにバブルになるのですが、前回の時と違い一般消費者や街の不動産会社の多くは参加していませんので、もし崩壊したとしても社会的にそれほど影響はないと思われます。
バブルの本当に怖いところは、一般消費者や中小企業がこの流れに巻き込まれたときです。
それではなぜ一般消費者や土地取引に疎い中小企業が、巻き込まれてしまうのでしょうか?
ここに銀行の融資姿勢があります。
一般的な企業の場合、儲かっていれば割りと誠実な商売を行うことが通例ですが、銀行の場合、儲かれば儲かるほどだんだんまずい方向に向かう性質があります。これは「お金」が商品であることが原因だと私は思っています。
10年ほど前の銀行は、収益のある優良な企業向けの貸し金でさえ引き上げを行っていました。(貸しはがし)この頃の銀行の目標は自己資本比率。自己資本比率の低い銀行は財務省や金融庁につぶされたからです。
銀行の場合、貸し出し金が財務諸表上は負債と判断されるため、自己資本比率(経営の安全性を確認する指標)を高めるためには、貸し出し金を削減するか、利益を上げるか、資本金の額を上げるしかありません。そして一番やりやすい、貸し出し金の引き上げに走ったのです。このためにどれほどの中小企業が苦労したことでしょう。
さて、そんな暗黒の時代をすごし、やっとつぶされる心配がなくなった最近では、打って変わって収益力が銀行の評価に変わりました。
そしていきなり「融資を増やし始めた」のです。
(この辺が雨の日に傘を奪い、晴れの日傘を貸すといわれるゆえんです^^)
現在の銀行は、いろいろな金融派生商品やら、手数料稼ぎやらの新しい収益源の開発も行っていますが、基本的には融資をして金利を稼ぐのが伝統的に銀行の生業です。そして金利は365日、何もしなくてもしっかり稼いでくれる天下の宝刀でもあるのです。
今まで貸しはがしをした企業にも、またお金を貸し始めた銀行は収益が上がり始めます。そして決算。後ろ向きだったバブル以降、やっと前向きに収益を稼ぐための行動を起こし、そして結果を出した銀行内は湧き上がります。改めて融資を受けた企業にしても、「あの時はひどかったじゃないか」と、皮肉のひとつも言いますが、それはそれ、ビジネスの世界で銀行融資は欠かせませんから、銀行の姿勢を許します。
しかし決算が終わった後、銀行の幹部は言います。
「暗黒の時代をみんなで乗り切った我々は、いよいよ打って出るんだ。後ろ向きな日々よさようなら、前向きなバンカーとして日本を支えるんだ!」
そして対前年度120%の収益計画。「ええー」と行員は思いますが、最悪期から脱したばかりですから、まだ市場はこれからです。「がんばってみるか」とまた一年がんばります。
そして決算。計画達成です。そしてまた行内は沸きあがり、安くなったボーナスが元に戻り、閉鎖ばかりしていた支店がまた増えだします。支店が増えるということは、ポストが増えることでもあり、行員は将来の希望も見えてきました。そんな中で新しい経営計画が発表されます。対前年度120%の収益計画。
おととしはまだ良かった。去年もまだ良かった。でも今年は・・・・・・・・・・・。
金融庁の検査はまだきつく、経営状態の悪い中小企業にはお金を貸せません。新製品も売れるところには売ってしまいました。毎年毎年上がるノルマをこなすには、何をすればいいのか?
貸し出し金は毎年何十億と増やさなければなりませんが、返済された分がへるので実質去年の倍の融資をこなさなければならない現実を突きつけられたとき、小口の融資をいくらしてもまったく計画に届かないことに呆然とする銀行マン。
そんな時、分譲や開発をしている不動産会社がターゲットになるのです。不動産会社の開発計画に対する融資は基本的に計画時に実行されます。書類だけで融資が実行できるのです。その規模はほとんど億単位であるために、簡単にノルマをこなすことが出来ます。
しかし、その融資は短期(一年以内)がほとんどであるため、今年のノルマはこなせても来期には返済されてしまいます。来年また新たな融資しなければ、何倍もの他の融資を獲得しなければならないのです。
そしてまた一年が過ぎます。またもや対前年120%の利益計画。もう三年前に比べると3倍もの融資を獲得するしかありません。しかし一度不動産開発融資にその数字を依存してしまった銀行は、他の細かな案件をいくら獲得したとしても、計画を達成することは出来ないほど不動産融資に依存しています。
その結果、だんだん融資の基準が緩んできます。(ええい、俺だけじゃないだろう。赤信号みんなで渡れば怖くない。)とみんなが思いはじめ、目先のノルマをこなすために「とにかく開発案件があれば、当行がご融資します。」と現場で営業マンが押し込むようになります。そんな話を何回か聞いた不動産会社は、高めの物件でも、とにかく早めに売ってしまえばなんとかなる、自分だけはババを引かないと考え始めます。しかし、そんな風に銀行にもちかけられているのはその会社だけではありません。そんな時、本来行き過ぎた取引を制御する役目の銀行の審査部でさえ、定年間近になった役員や上司が、今月、来月の成績に躍起になり始めたことを感じ始めます・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちょうどその頃、なぜかあまり業績の良くなかった中小企業も業績が回復してきます。不動産業界が日本全体の景気に与える力が大きいからです。しかしその実態は、緩んだ経営計画と緩んだ審査によって成り立った好景気です。
「どうかな。2000万円ほど融通できないかな?」
「結構です融資させていただきます。」
社会全体の好景気に持ち上げられるように業績が良くなった中小企業は、要注意先からなんとか融資対象先に格付けが上がります。
やっとうちの会社も銀行が振り向いてくれる会社になったと喜ぶ中小企業の社長。久しぶりに出た利益を税金で失いたくないので、銀行融資で設備投資を行います。せっかく新しい設備が入っても、使う社員がいなければ宝の持ち腐れですから、社員を雇います。そんな会社が増えた結果、失業率が下がります。その為新しい社員がなかなか獲得できなくなります。仕方がないから募集する給与基準を上げます。新人を上げるためには、今まで安月給で我慢してもらっていたベテラン社員の給与も上げなければなりません。
給与が上がり、会社の売上が上がり、新しい設備を導入した中小企業の会社内は盛り上がります。生活に自信を持った社員は家を買います。家具を買います。車をローンで買います。そして会社はどんどん成長戦略を立て、新しい仕事に取り組み、新たに銀行融資を受け、社員を雇い、給与を上げます。日本のサラリーマンの90%以上を抱える中小企業はよみがえったのです。
銀行が不動産会社に対する融資をカバーするために、どこでも良いから融資されているとも知らずに・・・・・・・・・・・・・
そしていつか不動産物件が売れなくなったとき。これらの循環が突然止まります。
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Posted by 金丸 : Comment(0) | 2007.2.28.