社長ブログ

大手のスーパーがインターネット販売に力を入れる。そんなニュースが聞こえてからちょうど3年ほどたちましたが、今年はいよいよ本格的に取り組んでいくようです。
この流れは来年のデジタル放送をにらんでのことだと思いますが、インターネットでいろんな商品が探されているとか、ネットが便利だから消費者はそこに流れるとか、そんな単純なことではないように感じます。ちょうど10年ほど前に、不動産業界を襲ったビジネスモデルの大きな変化が、いよいよ他の商品にも波及し始めているのではないか、という気がして仕方がありません。私が感じる(間違っているかもしれません。正解かどうかは3年くらい先にならないとわからないと思います)ビジネスモデルの変化を、今日は生産技術の観点からお話したいと思います。
昭和初期に世界的な大恐慌があったことは、今回のリーマンショックにあたって「100年に一度の大不況」のと叫ばれたことで改めて注目されていますが、その大恐慌の前に、製造業では産業革命以来の大きな変化が起きていました。フォードモータースによる大量生産の出現です。当時、お金持ちのおもちゃと揶揄された自動車を、大量生産することによってコストを下げ、大衆にも手が届く価格で市場に出したのです。このフォードの成功以来、製造業はいかに安く大量に品質の良い製品を市場に出すかが、企業の成長へのカギとなりました。
*ベルトコンベア、8時間労働、週40時間労働など現在の製造業の基本的な仕組みは、みなフォードによって成し遂げられたものです。
当時から先進国であったアメリカでさえ、消費者はモノに飢えていましたし、世界中の国の消費者はみな生活必需品が不足していたのです。だから高価な製品が安くなることは社会貢献でもあり、ひいては国力(国民の満足度が高くなる)が上がることにもなったのです。
日本でも高度成長時代には三種の神器などとして、テレビ、洗濯機、炊飯器などがあこがれの商品となりましたし、その後もラジカセやビデオ、現在でも薄型テレビや携帯などがその流れを汲んでいます。これらの商品は消費者がほしがっているのですから、手の届く価格で生産することができれば、おのずと売れていきます。ある意味作れば売れる時代だったといえます。
しかし一方で90年代のバブル崩壊を経験した日本では、少量多品種の時代にも突入していました。消費財に満足した消費者の登場が原因です。生活に必要な製品はすでに持っている。すでにある普通のものでなく、それより価値のあるものがほしい、という消費者に支持される商品をつくらなければ売れない時代が到来したのです。
画一的な商品を大量に作るだけでは、簡単に収益を上げることができなくなった企業は、画一的な商品は製造コストの安いところで作り(アジア)、日本の工場ではもっと付加価値のある商品を、いかに早く、そしてたくさんの種類を正確に作ることができるかが、企業の成長に不可欠になったのです。携帯電話などがその典型で、たくさんの種類を短期間に生産し、それでも収益を上げなくてはならなくなりました。
この流れがマーケティングという理論を、どこの企業でもビジネスモデルの中に取り入れるきっかけとなったのです。マーケティングとは、いかに買いたい消費者の前に買いたい商品を提示できるか、という理論ですが(ざっくりすぎますが)、たくさんの種類を作るということは、売れない商品を作ってしまうリスク(不良在庫)、売れる商品が足りなくなるリスク(欠品)を抱えていますから、どうしても消費者の動向や指向を正確に読み解く必要があったのです。
この時代の変化の中で最も注目されたのがトヨタの看板方式です。トヨタの看板方式とは、必要な部品を必要なだけ、必要な場所に届けるという風に理解されている方が多いのですが、トヨタの看板方式の肝は、在庫をもたず、かつ欠品を起こさないための仕組みです。
販売店で車が売れたら、その分だけその車を作る仕組みだと思ってもらえば結構です。しかしこのトヨタの看板方式が脚光を浴びた後、たくさんの会社が真似をしましたが、あまりうまく成果を上げることができませんでした。それはトヨタの看板方式の成功のカギが、実際には「強力な販売力」にあったからです。
トヨタの工場のそばにはたくさんの部品メーカーがあり、さらに必要な時間に必要な部品をトヨタの工場に供給するために、部品を満載したトラックが工場周辺に控えています。トヨタには在庫はないが、その実部品メーカーには大量の在庫があったのです。しかし部品メーカーの社長は文句を言いませんでした。なぜならその部品はトヨタの強力な販売力に支えられて、決して不良在庫にならなかったからです。トヨタの看板方式を取り入れても、本質的に販売力がない会社はその効果が限定されてしまったのは、こういうわけがあったのです。
*このことをトヨタの社員がよく理解していなかったから、大量に作り、大量に販売することを目指しすぎ、今回のトヨタの経営危機を招いたと私は思っています。
トヨタの看板方式を発明し、昇華させたのは元トヨタ副社長の大野耐一さんですが、大野さんの薫陶を受け、最終的に他の会社でも看板方式を取り入れ、効果を上げさせることに成功したのは、たぶん山田日登志さんという方です。
山田先生は指導する会社に看板方式とは言わず「セル生産」という言葉を使いました。別名「行燈(あんどん)」とか「からくり」とかを工場ラインに取り入れたことでも有名です。
セル生産方式とは、やはり在庫に注目した生産方式なのですが、看板方式よりもっと進んだことがありました。それは流通在庫にまで踏み込んでその削減を成功させたことです。トヨタでは実質直販でしたから、あまり意識されなかった流通在庫でしたが、街のお店で商品を売るメーカーにとって、問屋さんや、倉庫における在庫もいざとなったら不良在庫になりかねませんし、かといって少なければ欠品を起こして、販売機会を失う。そのためにどうしても流通在庫をもつ必要があったのですが、この管理が属人的であったり、過去の経験に基づいて行われていた(勘)のを、生産ラインの管理の中に取り入れてしまったのです。
私が知っているのは(というより当時もっとも成功していたセル生産方式だと思います)、ソニーの工場における「ウォークマン」の生産ラインでした。日本中のお店で売れた台数だけ翌日に生産するラインです。お店で実際に売れた数だけ作るので、流通在庫は増えません。問題なのは、日々の販売数量はイベント、時期、天候などによって大きく変化することです。
そこで山田先生は小さな手組のラインをたくさん作ることによって、その変化に耐えられるようにしました。当時のソニーの工場内には木工所があり、生産数量が増えると木でラインを即席で作る。という、それまでの常識から見れば「離れ業」といえる製造方法をとっていました。この方式はその後プレイステーションのラインにも取り入れられ、大きな成果を上げたのです。
*その後ソニーは何か事情があったのでしょう。セル生産への情熱を失ってしまったようです。それに代わってセル生産方式で大きな成果を上げていったのがキヤノンです。
大量生産の時代から、少量多品種の時代に対応するため、そして不良在庫を出さないために製造業では、こんな変化が起きていたのです。しかし大きな成果が出たからって安心して油断しているわけにはいきません。企業は永遠にコストを削減し、永遠に利益を上げ続けなければならないからです。そんな中、さらに在庫をもたず無駄を省く生産技術の手法が,登場してきます。それが「受注生産」です。そして、それを可能にしたのがインターネットだったのです。
受注生産で成果を上げた会社は、すでに90年代には登場しています。そうあのコンピュータメーカーの「DELL」です。
デルは徹底的にコストを削減するために、受注生産にたどり着きます。注文してから納期がかかることが難点ですが、受注生産がために、顧客ごとのカスタマイズが可能になりました。また在庫はもちろんゼロです。受注生産ですから。
受注生産のビジネスモデルにおける、最大のコストは営業経費であり、最大の問題点は価格です。一人ひとりのお客様の希望を聞くことのコスト、前例が少ない中で価格を交渉して決めるコスト、この二つが受注生産をメインにした会社の成長を阻んでいました。そのため現在でも一般的には受注生産イコール「下請け」として、決まったお客様の仕事をやり続けることを意味しています。
それがインターネットの登場により、お客様が自分でスペックを指示することによって、営業経費0円で製造することが可能になったのです。さらに顧客はスペックを指示する段階で価格に納得して発注しています。在庫をまったく持たないビジネスモデルは、その分価格を安くすることができたので、消費者の満足できる価格を提示することが可能になり、価格交渉という、もう一つのネックも問題にならなかったのです。たまたま当時のIBMPC互換機はスペックが統一されていて、誰でもが作ることが可能であったこともその成功を後押ししました。
この流れがこれからパソコン以外の他の製品にも、押し寄せてくると私は考えています。インターネットが営業経費を削減させ、受注生産のデメリットを消し、管理しなくても在庫をもたない。この生産性の向上を獲得した会社が、これからの主役になると考えているのです。そしてちょうどそんなことを考えている時に、ネットスーパーが登場してきたのです。
とここまで書いたところで、あまりに長くなってしまったことに気づきました。この先は次回にしたいと思います。


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Posted by 金丸 : Comment(0) | 2010.5.6.