社長ブログ

突然の訪問

男は黙って目を見る

「あのーこんな人が会いたいってきてるんですが?」
部下が持ってきた名刺には日本郵政公社と赤い字で書かれていた。
(ふーーーーーーーん)
「いいよ会ってみるよ」と答えると
「あそこの人です」と指差す。
なんだかおびえたような表情の
若者か年寄りかわからないキャラの青年が立っていた。
こういう青年を見るとなんとなくかわいそうな気がして
話をしてあげたくなる自分に年を感じながら、応接に一緒に入った。
まず目に付いたのが「くつ」。
当社は玄関で靴をスリッパに履き替えて入ってくるのだが
履き替えていない。つまり土足で知らない会社に入ってきたわけだ。
それは許そう。かわいそうな気もするし。
「で、何?」
「ゆうゆうパックって知っていますか?」
「名前は知ってるよ」
「どんな内容かわかりますか?」
「んっ。ちゃんとは知らないけど。たぶんこんな風かなって想像してる。
まずヤマト便や佐川に比べて高いだろうな……遅いだろうな。
でも安全ですなんて言うんだろうな。そんな感じ」
「そうなんです」
「あほかお前。それじゃ営業じゃないだろ」
「いえ。こんな風に話てもらえるだけでまだましです。
たいていは門前払いですので。現場の意見が聞けてうれしいです」
(まあ、今まで営業してなかったんだろうから。こんな甘い営業でも仕方がないか。
たぶん最後までうちを使ってくださいなんて言わず、
別れ際に名刺だけでもくださいって…
上司に飛び込み訪問をしたことを証明できるだけで十分なんだろうな)
そんな風に思ったのだが、いろいろ話は聞いてみた。
郵政公社が来年の10月には完全に民営化されること。
宅配便と違って、集荷、配達、営業担当ががそれぞれ分かれていること。
(配達に来た人は、そこに集荷する荷物が置いてあっても持っていかないんだって)
コンビニをヤマト便から奪ったけれど、結局個人の依頼なんて微々たる物だったこと。
法人からの注文を取れなければならないと営業してみたが、どこもかしこも
郵政公社のほうが高い、遅い、サービスが悪いと思っていること。
なんだかかわいそうにもなったので、
「今が一番苦しい時なんじゃないの。
価格もシステムもサービスも遅れているかもしれないけど
後は良くなる一方なんだもの。がんばっていればいいことあるよ」
「でも、来年の10月には完全民営化で。
今までは公務員として身分が保障されていましたけれど、これからは違うんです。
もしかしたらその頃には、僕もクビになっているかもしれません」
悲しそうに不幸な自分を語る彼の姿を見て腹が立ちました。
「お前は何にもわかっていない。今宅配業界のシェアはどうなっている」
「ヤマトさんと佐川さんが3割づつ、
残りの4割を日通やらフットワークやら福山やらがやっています」
「それで」
「それら大手で9割以上だと思いますが」
「そこに巨大なお宅が参入するんだ」
「ええ」
「いいか。お前のクビが飛ぶかどうかは俺にはわからん。お前の上司も然りだ。
だが確実に言えるのは、郵政公社が民間として参入してきた時に、
つぶれる中小企業があり、路頭に迷う従業員がいるってことだ。
なんでお前ら自分のことばっかり言ってるんだ。そんな連中のこと考えたことないのか」
「すいません」
「いや。言いすぎた。まあとにかくがんばってください」
「ありがとうございました」
「いただきます」とコーヒーをごくごく飲み干してから、
「すいません。良かったら名刺を一枚いただけませんか?」
やっぱりうちを使ってくれとは言わなかった……


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Posted by 金丸 : Comment(0) | 2006.2.3.